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読了:世界史を変えた新素材, 佐藤健太郎 [読書日記]

* 世界史を変えた新素材, 佐藤健太郎, 新潮社, 9784106038334

材料科学の観点で、世界史、というより科学史を平易に解説している本。2018年の著作。

目次をみると、取り上げる「材料」として、金、セラミック、鉄、コラーゲン、セルロース、炭酸カルシウム、、、といった感じで、ある意味普遍的に文明社会に存在している材料が並ぶ。こいつは良さそうと読みだしてみると、テキスト自体もなかなか読ませる内容で、読んでいて面白くてためになる、という印象。文章も比較的平易になるように工夫されているようで、すらすらと読んでいける。背景知識はなくても大丈夫なようになっているようだが、無機や有機の化学に関して高校1年レベルの理解があるとさらに楽しめるでしょう。

閑話休題、「鉄」の話の途中でつい吹き出した。
鉄という元素=資源が地殻に大量にあったおかげで人類は…という話の流れで、ではなぜ宇宙には鉄がたくさんある?それは、年老いた主系列星の中心部で Feまでは核融合がすすむので…という宇宙物理学な話への導入なわけですが、その章見出しがこれ。
「全てが Feになる」
この著者の方、科学だけじゃなくベストセラーのミステリ小説にも詳しいらしいですね。

世界史を変えた新素材 (新潮選書)


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読了:AI vs. 教科書が読めない子どもたち, 新井紀子 [読書日記]

* AI vs. 教科書が読めない子どもたち, 新井紀子, 東洋経済新報社, 9784492762394

ディープラーニングに代表されるいわゆる第三世代のAI技術を下敷きに、現時点のAI技術の実力、現在の延長線上におけるAI技術の限界、一方でそれを使う側としての人間(の教育)の課題、について解説する教養的読み物である。
タイトルから想像する内容より、圧倒的に面白い、というのが個人的だが読後の感想。機械学習の社会実装、もしくは中等教育(ここ重要)に興味のある人には力強くオススメ。

著者は、NIIで人工知能研究をやっている新井先生。そこら辺の記者やらテクニカルライターもどきの書いたものとは深さが違うことを期待して読み始めた。
内容はというと、前半は現在研究対象として主流となっているディープラーニングベースのAI技術の現状解説(なにができて、なにができないのか)と、この技術を推し進めていった先の将来像(何がどこまでできるようになりそうか)の推定の話。そのうちコンピュータがなんでもやってくれる or 人の代わりをやってしまう、なんていう技術理解不足から来る幻想をぶっ潰す、という導入。そうはいっても、特定の知的労働分野をAIが実用的に代替できるのはほぼ確実、それっていったいどんな分野?というのが続く。
これらを踏まえての後半。じゃあAIが当分(現在の延長線上では)できない事柄を人間がやっていければいいんだよね?という問いに、日本の教育データをもとにバッサリ斬る。国内の大規模な調査によると、文章(例えば数学の問題文)を論理的に理解できていない学生がかなりの割合いるようだ、というのが骨子。(このへんの調査と分析は、さすがNII(国立情報学研究所)の真骨頂である。)
そして三段論法的に、こんなんじゃ「AIが当分できない仕事」をやれない人間がたくさん社会で職を失って取り残される、というのが本書が提示する危機感なのである。対策は・・・中等教育を地道に頑張るしかない、ようです。王道は無し。

閑話休題、後半に出てくる偶数奇数の問いで「典型的な誤答」を自分もやらかしてちょっとショックだったのだけれど、その後すぐ示されたグラフを読んで笑ってしまった。まさに統計の示す通り。いやはや。

【2019年ビジネス書大賞 大賞】AI vs. 教科書が読めない子どもたち


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読了:ゲームの名は誘拐, 東野圭吾 [読書日記]

* ゲームの名は誘拐, 東野圭吾, 光文社, 9784334738853

東野圭吾のサスペンス系ミステリー。2000年の発表。
本作はいわゆる倒叙形式になっており、終始「犯人」側からの視点、主観で描かれているのが特徴である。

主人公・佐久間は、中堅広告代理店勤務のバリバリの広告マンという設定。
読み始めてすぐ、なんなんだこのわざとらしいイヤミな奴は~、という第一印象。コイツの調子に最後まで付き合うのか・・・と微妙に萎える。そしてこれまたわざとらしい偶然によってストーリーは転がり出し、このあたりから展開がスピードアップしてくる。そして最後に待ち構えているどんでん返し。途中でうすうす感じながらも、ありゃーやっぱりそういう事態になっちゃうのか~的な結末。もっとも個人的には最後の最後の切り札的なアレはちょっと微妙な印象。そりゃそうだけど、だから?という感じ。

以下は蛇足です。
いまさらどうしようもない話ではありますが、やはり2000年に書かれた話を20年近くたってから初見で読む、というのは、描かれている内容にテクノロジーな話がふんだんに含まれていると、これが読んでいてすごくつらい。
「携帯電話、インターネットを駆使し…」なんて背表紙にまで書かれてますけど、それらの使われ方が完全に昔ばなし。もちろんそんなの当たり前なんですが、でもつらい。
自分ももう忘却の彼方ですが、2000年というと、i-mode(これすら死語か?非力で細い回線の携帯電話端末で限定的ながらwebブラウジングをできるようにした技術)がサービスインした翌年。光ファイバなんて夢の中、ようやくADSLがサービスインして、電話線にモジュラジャックでつなぐ28.8kbpsのアナログモデムがまだ現役。Wi-Fiなんて言葉すらまだ無い。Windowsは98SE or 2000で、まだXPが出ていない。こんな時代です。
かえって、1990年以前を舞台に設定して書かれたミステリのほうが、犯人に電話線を切られて外部と連絡が取れない!的な割り切りが受け入れやすい感じがしました。書く側としても難しいところなんでしょう。

ゲームの名は誘拐 (光文社文庫)


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読了:ビット・プレイヤー (BIT PLAYERS AND OTHER STORIES), グレッグ・イーガン [読書日記]

* ビット・プレイヤー (BIT PLAYERS AND OTHER STORIES), グレッグ・イーガン, 山岸真, 早川書房, 9784150122232

イーガンのSF短編集である。日本(ハヤカワ)で独自に編纂されたもの。
収録作品:七色覚、不気味の谷、ビット・プレイヤー、失われた大陸、鰐乗り、孤児惑星

読み終えたところでの感想ですが、さすがイーガンなかなか飛ばしてます。
収録作品ごとにやや趣が異なるような気がするのはわざとなのかどうなのか。

(ネタバレしてしまうので詳しくかけませんが)個人的には、「失われた大陸」はぜんぜん世界に入り込めず。のんびりした日本人だからでしょうか。
「不気味の谷」は、タイトルが認知科学の用語そのまんまなので、メインテーマはいきなり想像がつく。どうひねるのかと思っていたら終わってしまった。どうやらちゃんと理解できなかった模様。
「七色覚」はもう少し近しい未来ものか。覚醒した夢のような能力が実は・・・というヘヴィーなストーリー。読みながら、ものすごく現実的に考えてしまった。
他の3編は類似の技術ベースを下敷きにしたもの、といえる。

収録作の中では、「孤児惑星 (hot rock)」が個人的には好み。都合の良い偶然がいろいろ重なったりするストーリーはやや微妙だが、なんといいますか、かつてのハードSF全盛時代のような雰囲気がここにはある。科学の驚異というよりは工学の驚異に近いかもしれないが、この荒唐無稽な印象もある工学的な設定でもって読むほうはハラハラドキドキ。いや楽しめました。

ビット・プレイヤー (ハヤカワ文庫SF)


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