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読了:刀と傘, 伊吹亜門 [読書日記]

* 刀と傘, 伊吹亜門, 東京創元社, 9784488481216

幕末から明治初頭を舞台にした本格ミステリの連作短編集。
第19回本格ミステリ大賞受賞作である。伊吹作品は初読。

とある書評でこの著者の新作が高評されていて興味を持ち、文庫化されてた2018年発表の作品を入手したという格好。
明治維新前後、慶應3年から明治6年にかけての日本の激動の時代を背景にした本格ミステリという触れ込み。いやいやどうなんだか?などと甘く考えて読み始めて度肝を抜かれました。

この連作短編、単に時代設定をそこに置いただけではない。当時の時代ならではの世間の状況や、市井の人々のものの考え方、政治的画策や立場による確執やらをあぶりだす。そして、それら故の事件への動機、機会、そして犯行の手口へ繋がっていく、という趣向なのだ。なかなか凝っている。

それとですね、ミステリ小説よりサスペンスに振った作品に多いと思うが、登場人物たちにはわかっていない事情や事実を読者は知っている(歴史的事実として知っていたり、著者が予め明らかにしていたり)といった、登場人物と読者との間の情報の非対称性が前面に出ている作品を思い浮かべるとよい。本作はその逆張りともいえるのでは?
例えば「監獄舎の殺人」。探偵役の慧眼によって動機が明らかにされるわけだが、読んだ瞬間の反応は(当方の歴史的知見が浅いからかもだが)、はあっ?!であった。
その後きっちりと背景含め説明が加えられるので読者としてもナルホドと納得するわけだが、現代人の思考回路ではこんな動機はありえないし思いもよらない。
当方、いわゆる理系な人間で教科としての歴史には弱いほう。そうはいっても、明治維新前後の政治的や軍事的なあれこれのごたごたの基礎知識くらいはあるつもり。しかしこんな動機にたどり着くのは到底無理であった。そういう意味でも度肝を抜かれたとしかいいようがない。

いや、ちょっと良いものを読ませてもらいました。
視野が広がるってこういうことか。書評恐るべし。

刀と傘 (創元推理文庫)


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