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読了:ホームズ連盟の冒険, 北原尚彦 [読書日記]

* ホームズ連盟の冒険 (The Adventures of Holms League), 北原尚彦, 祥伝社, 9784396345266

贋作ホームズものの一形態、なのであろう短編集。

著者の北原尚彦氏の作品は2作目の読了(前の1つは、「シャーロックホームズの蒐集」)である。本作は、ホームズものの「原典」に登場する脇役の人物が活躍する事件を描くシリーズものの第2作である。残念ながら当方第1作を未読なのだが、短編としてそれぞれ独立したお話になっている(ドイルが書いたホームズものと同じ)ので、これから読み始めてもよいようになっている模様。

今回スポットが当たるのは、モリアーティ教授、ワトソン夫人、給仕のビリー、マイクロフト・ホームズ、モリアーティの片腕・モラン大佐、それにスタンフォード氏である。はて?スタンフォード氏って誰だっけ?とか思いながらも楽しく読み進める。文章の調子はドイルというよりは北原調という感じではあるが、原典の内容に沿ったと思われるちょっとした細かい書き込みが、よくわからないなりにも楽しめる気分にさせてくれるのである。まだ読んでいない第1作も手に取ってみようと思えましたね。

個人的には、なんだかんだ言ってワトソン夫人の活躍が読んでいて楽しかった。謎の結末もいかにもという感じであるし、そういわれてみればドイル作品にもこういう趣向のストーリーがあったような気もしてきたので。

ホームズ連盟の冒険 (祥伝社文庫)


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読了:鍵の掛かった男, 有栖川有栖 [読書日記]

* 鍵の掛かった男, 有栖川有栖, 幻冬舎, 9784344426511

火村英生ものの長編ミステリである。2015年の作品。文庫化は2017年で、発売当初に買って1年以上積読になっていたもの。文庫で700ページ超もある大作なので大事にとっておいたら次のがでちゃったので慌てた、という状況。

物語は作家・有栖川が重鎮の作家から相談事を持ち掛けられるところから始まる。火村シリーズはおおむね事件が起きたところから始まることが多いので、なんだこりゃと素直な読者は思うわけだが、ストーリーはここからちゃんと始まっている。
いろいろな経緯もあって、アリスは単独で事件(?)の真相を探る活動を開始するのだが、この捜査があっちへいったりこっちへいったり。読んでいる側としてはちょっとイライラが募る。大阪の地理や歴史にはそれほど深い造詣はないし、それほど関西への思い入れもなあ・・・と思いつつも、とにかくアリスの活動報告に身を任せていくしかない。
本の厚さでおおよそ半分を過ぎたあたりで真打・火村先生登場。そして真実はついに明らかに・・・という展開である。

驚きの結末まで読み終わっての感想ですが、まぁ楽しめました、というところ。

これまで火村ものというと、快刀乱麻を断つ推理でばっさり、というイメージが強いのだが、本作はどちらかというと地道にアリスが情報を集めて回る(のと絡めた大阪やその周辺の地勢や歴史や町の風物の描写)を楽しみましょうという趣向に重きが置かれている感じがするのだ。
ミステリのストーリとしてみた場合も、これはどう贔屓目に見ても「本格」ではなく、アリスの視点で捜査の過程を追体験する読書、という様相。これがクロフツ作品ならさもありなんというところですが・・・。

というわけで、面白いミステリ小説ではありますが、ちょっと(こちらが勝手に)期待したものと違った、という話です。もう10年もすれば、有栖川有栖の転換点となった作品!などと喧伝されるのかしらん?

鍵の掛かった男 (幻冬舎文庫)


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読了:ヒポクラテスの憂鬱, 中山七里 [読書日記]

* ヒポクラテスの憂鬱, 中山七里, 祥伝社, 9784396345310

法医学系のミステリ小説である。昨年文庫が出た「ヒポクラテスの誓い」に続く第2弾。
登場人物は、前作に引き続きエキセントリック(笑)な面々である。猪突猛進系(自分では常識人だと思っている)主人公の若手女医、それに輪をかけて直情型の県警刑事、腕はいいが興味が常識はずれな米国人のドクター、それに法医学界の重鎮なのに物言いがとんでもない教授の先生。

目次を見たときに各章のサブタイトルが東野圭吾調なのにちょっと鼻白んだものの、読み始めてみれば、各話ごとに深くて仄暗い事件の背景が暴かれていく過程が興味深い。もっとも、ストーリーは前作よりさらにドラマ仕立てな印象だ。良くも悪くも話の展開が水戸黄門調だからだろうか、ある意味、安心して読んでいられる、ともいえる。

読み進めながらちょっと唸ったのは、ストーリーとして必ずしもハッピーエンドやら勧善懲悪になっていないところ。隠されていた悪事は暴かれましたけどでもこの女子もだいぶ真っ黒じゃん、とか、この女が主犯ぽいけど、兄ちゃんもたいがいだよな、とか。読者としては章末ごとが重たい。

薄ーく微妙に引いておいた伏線を最終章でばっちり回収するミステリ構成も健在。いや、これは全然予想できない嬉しい楽しい誤算です。一冊通しての犯人像というのは実は最初から読者もぼんやりイメージできるわけですが、その背景にある動機というのがあまりに現代的というか社会的というか先進国的というか。最後までう~~んと唸らされ、楽しめました。

やや蛇足ですが一点だけ、そっち系の技術者として苦言。
高圧送電線の下にしばらく身を置いたくらいで〇〇〇が調子悪くなる、なんていう(ように読者が誤解して読んでしまう)デマを流すのはどうなんでしょうね~。もしそんな高圧線があったとすると、存在自体が法令違反なので即時撤去しないといけない代物。地の文じゃなくて登場人物がそう発言したという形式ではありますが、本書は法医学者(医科歯科大の上村公一先生)の監修を受けたはずで、この先生、大丈夫なのかしらん?(もしかして・・・死んだあとの部分だけ監修したということか。法医学者だけに。)

ヒポクラテスの憂鬱 (祥伝社文庫)


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読了:名作文学に見る「家」<謎とロマン編>, 小幡陽次郎&横島誠司 [読書日記]

* 名作文学に見る「家」<謎とロマン編>, 小幡陽次郎&横島誠司, 朝日新聞社, 9784022612045

文学作品に登場する「家」を、建築家の観点で図面に表わしてしまおう、という本。1992年の刊行(文庫化は1997年)。

本書と類似の取り組みとして、有栖川有栖&磯田和一「有栖川有栖の密室大図鑑」(2002)があるが(読了済み)、その前書きで本書が言及されていたのが入手のきっかけ。なので、足掛け十年余、ようやくAmazon Market Placeでリーズナブルなものが販売されていたのを見つけて入手したというもの。で、目次をみるなりなるほどと思った。有栖川はさすが重複を避けたらしい。世界初の密室殺人「モルグ街の殺人」はこちらに収録されていたのである。

読み進めていくと、読んだことある作品が多く取り上げられていた「密室大図鑑」に比べ、まったく不案内な作家や作品が多い。石原慎太郎なんて、そういえば作家だったよなという認識レベルなのだが、しかしここで紹介されている「秘祭」、図版が美しいのもあってちょっとこういうのも読んだほうが良いのかもと思わせるつくり。

後半になると、取り上げられる対象はミステリではなくなる。それでも森遥子だのモーパッサンだの、読んでないなぁと反省させられる分野が沢山。こういうアンソロジー的なものは、年齢を重ねて視野が狭くなっていく読者にとっては本当ありがたいものです。

名作文学に見る「家」―謎とロマン編 (朝日文庫)


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読了:広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由 : フェルミのパラドックス (If the universe is teeming with aliens where is everybody?), スティーヴン・ウェッブ [読書日記]

* 広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由 : フェルミのパラドックス (If the universe is teeming with aliens where is everybody?), スティーヴン・ウェッブ, 松浦俊輔, 青土社, 9784791761265

SETIとかそういう分野の宇宙科学啓蒙本、といっていいだろう。2年ほど積読になってたのを掘り出して読了。

もし文明を発達させた宇宙人がいるのならば何故地球人には彼らが見当たらないのだろう?という問いに対する代表的な答えを50個並べている。代表的と言ってもこれだけあるのだ、我々にはまだ何もわかっていない、といってもいいのかもしれない。書かれたのが2004年ということで、微妙にあれ?と思う古い話も含まれているけれど、最終的には宇宙物理学の話なのでこのくらいの揺れは気にしないで読んだほうがよさそうだ。フェルミの定理が示すように、その定量値はなんとでもあてはめられる分野なのだから。

ともあれ、これら50の仮説をいちいち検証する過程で、あちらこちらの学問の分野が大量に引用されることになるのだが、この過程はなかなかに楽しい。もちろん全部の分野を深く理解するなんて一冊の本でできるはずもなく、ごくごく表面をなぞっているだけなのだろうが、楽しい。「宇宙人はほんとうにいるの?」という素朴(?)な疑問に答えるだけなら、ずんぶんとオーバーテクノロジー(※)。しかしそれを嬉々として一冊の本にまでしてしまうあたり、人類と科学もまだ捨てたもんじゃないかもしれないですね。

※ 対象の分野が全く異なるけれど、東野圭吾「真夏の方程式」をちらっとだけ思い出すのである。


広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由―フェルミのパラドックス


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