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読了:蒼海館の殺人, 阿津川辰海 [読書日記]

* 蒼海館の殺人, 阿津川辰海, 講談社, 9784065212073

「嵐の山荘もの」のミステリーである。2021年2月の文庫書下ろし作品である。阿津川作品は「紅蓮館」に続いて2作目の読了。

舞台は例によって山村にある館。山奥にあるのに「蒼海館」とはこれ如何にという感じだが、作中でいちおうもっともらしい説明はある。
前例のない規模の台風襲来によって館は外界から途絶され(ただし携帯ネットワークは無事に生きているという設定。停電もなし)、土砂崩れの天然ダムによると思われる急な水位上昇で館に水没の危機がせまる、というのが舞台設定。天候の急激な悪化と前後して第1の事件が起こり、、、という展開である。

嵐の山荘ものといえば癖のある登場人物と相場が決まっているわけだが、例にもれず一癖もふた癖もある人物が10名ばかり閉じ込められるというお話である。語り手は前作にも登場した高校生の「僕」。高校生探偵の葛城君のワトソン役という扱いである。

さて文庫で600ページ以上と少々大部。これは謎に対する仮説を立てては論理的にそれを検証して一つ一つつぶし・・・という過程の分なのかなと思っていたら、別にそういうわけではなく、関係者にいろいろ質問をして話を聞いては誤解や嘘を明らかにしていくことで不可解だと思われていたことを理解できるようにしていく、という過程が長かった。

そして判明する動機の一端がとても古典的。メイントリックもたいへん古典的。一方で、舞台設定の一部にいま問題になりつつある異常気象ネタと、スマートホンをはじめとする各種ガジェットの機能やら、Webで提供されている各種サービスやらをとりまぜて現代の読者に受けるお話にしている、という作為が強く感じられてしまった。

最後の水没全滅の危機をどう乗り越えるのかの段に至っては、フィクションとはいえだいぶ無理筋じゃないのかなあ、と。未曽有の規模の台風とかいう条件で、〇〇がこの時点まで〇〇しているとあらかじめ信じられるわけないでしょう?世間知らずの高校生ならともかく、こんなすごい経歴の持ち主が。

しかもですよ、線状降水帯とかならともかく(念のため、本作は2021年刊行です)、台風による被害規模をこのメンバーの誰もが何日も前から予想できていないって・・・。

夏の夜長に読むお話として楽しめはしましたが、長い割には凸凹感が強く、ミステリとして勧められるかというとどうなんでしょうという感想でした。

蒼海館の殺人 (講談社タイガ)


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読了:「十五少年漂流記」への旅 : 幻の島を探して, 椎名誠 [読書日記]

* 「十五少年漂流記」への旅 : 幻の島を探して, 椎名誠, 新潮社, 9784101448428

タイトル通り、ジュール・ヴェルヌの「十五少年漂流記」の舞台である「チェアマン島」を探しに行くというエッセー本である。2008年刊行の文庫化である。

「十五少年漂流記」、別名「2年間の休暇」は、小中学生くらいのときに何度も読み返した本。最初は子供向けの抄訳のような本、次に福音館書店の箱入りのハードカバーを入手して、何度も読んだ。舞台の孤島のモデルの島がマゼラン海峡近くにあるというのは知っていたのだが、そこにいてみるという話かあ、ということで購入。

ところが冒頭に掲示されている世界地図を見ておや?と思う。ニュージーランド本島沖にある「チャタム諸島」というのがゴシック体でわざわざ書かれているのだ。あれ?マゼラン海峡の話じゃないの?

このあたりの詳しいところは実際に読んでいただくとして、あくまでこの本はドキュメンタリとかではなく、エッセーであるというのがポイント。上に書いた趣旨で突っ走る本かというとちょっと違うのだ。十五少年が書かれた国際的な背景の話とかはなるほどねという内容なのだが、最初のほうにそれなりに紙数を使って書かれている北極圏のツンドラの辛い話とか、タイトルと関係ないよなあ、と。何かの伏線なのかとも思ったりもしたが、自分の文章読解力に問題があるのか、どうチェアマン島につながるのか最後までわからなかったのだ。

旅のエッセーはだいぶ読みつけているつもりだったのですが、読んでる分野が鉄道ものに偏り過ぎていたのを反省するべきなのかも?

「十五少年漂流記」への旅 ―幻の島を探して (新潮文庫)


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読了:グラスバードは還らない (The Glass Bird will never Return), 市川憂人 [読書日記]

* グラスバードは還らない (The Glass Bird will never Return), 市川憂人, 東京創元社, 9784488406233

市川の「漣&マリア」シリーズ第3弾である。
第1弾、第2弾ともにいわゆる叙述トリックの香りがするミステリだったので、これも何か仕掛けがあるに違いないと思いながらの読了。

いやいやしかし。読み終えてかなりゾクゾクっとしましたね。
ゾクゾクと言っても、超絶トリックを目の当たりにした恍惚感、みたいなのではなく、背筋がうっすら寒くなる系の。

叙述トリックというか舞台づくり的なアレは、だいたいそんなところかなあと(すいません電気・電子関係は技術史も含めそれなりにわたくし詳しいです)いう感じだし、それが割れた時点で首謀者(?)の属性もだいたい見えてしまうのは残念。
伏線的にちらっと途中で出てくる〇〇〇〇〇〇も、メタ〇〇〇〇〇関係の発表とかを覚えている技術屋&SFアニメも幅広く見ている人はははあんと思えてしまうし、そうなるとすべてあるあるに。

・・・なんですが、フィナーレに近づいたところでとんでもない驚愕の事実が述べられるのですね、これが。えええええ~(ゾクゾク~)。

何故か「地球の長い午後」が脳裏に浮かびました(ぜんぜん違うけれど)。
しかし、いいのかなこれ。作品世界はパラレルワールドという設定ではあるものの、すごい問題作なんじゃないですかね?

すごいミステリと思えたかどうかはともかく、ほんとう驚きました。

グラスバードは還らない (創元推理文庫)


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読了:脳にはバグがひそんでる : 進化した脳の残念な盲点 (Brain Bugs), ディーン・ブオノマーノ [読書日記]

* 脳にはバグがひそんでる : 進化した脳の残念な盲点 (Brain Bugs), ディーン・ブオノマーノ, 柴田裕之, 河出書房新社, 9784309467320

人間の脳(というより思考や記憶の機能)の根本的な限界や特性について語ろうという科学解説本。

冒頭はヒト(というより哺乳類の)脳と神経系の構造と、それがどうやって記憶や思考の機能を実現しているか、の解説から始まる。絵のないNewton誌を読んでいるような気分になってくる。ちょっと思ったのと違うなあ、と読み進めていくと、次第に認知バイアスやら、記憶能力の限界や特性といった話になってくる。
で、これが実は脳と神経系の構造などに起因している、という話に縦一本でつながるのだ。

このあたりでもうすっかり掴まれました。
ニューロンがどうやって機能しているかとか、経験や記憶がどう記録されているか、のような話の、概念的なところはそれこそNewton誌などで何度も読んでいたはず。
そして、それとはまったく別の観点から、人は認知バイアスを持ち、パラドックスにどのように反応し、のような話も心理学的な切り口で何度も読んでいたはず。
それらが根っこでつながっているというのを、ここまで論理的にばっさりと。うーん、なんだか今まで「ぼーっと生きて」きたような気がしてしまう。

翻訳書なりの読みづらさは否めないが、まあそれを頑張って読んだなりのことはあると思える内容であります。
巻末の参考文献と注釈の山がこれまたうれしいですね。

脳にはバグがひそんでる: 進化した脳の残念な盲点 (河出文庫)


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