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読了:ヒポクラテスの試練, 中山七里 [読書日記]

* ヒポクラテスの試練, 中山七里, 祥伝社, 9784396347802

法医学を題材にしたミステリシリーズ第3段である。
これまでのシリーズは短編ベースの構成だったのだが、本書は長編ミステリである。いくつかの短編を通じて伏線が引かれて・・・というわけでもなく、一つの長編である(ちょっと面食らう)。

例によって舞台は首都圏の大学にある法医学教室。ここのボスである変わり者の教授、海外では評価が高いが国内では煙たがられ、しかしその腕と眼力はとんでもなく確かで、隠された犯罪その他の死因を
教授が白日に暴き出す、というのがこれまでのお話。しかし今回はちょっとばかり様相が違う。

なにせ第4章で異国の地に舞台が移り、当の教授は裏方に回るのだ。この辺りから法医学の話というよりは、社会派ミステリの様相を呈してくる。
最後のほうでどんでんがえし的な逸話が挿入されるのだが、だんだんオカルトじみてきてちょっとねえと萎えたのが実際とのところ。

前作まで基本的な立場として、科学的な事実を明らかにするまでが法医学(教室の面々)の仕事、動機を解明するとかの人間の所業に関するところを掘り下げるのは警察の仕事、という割り切りが描かれていたと思うのですよね。本作の方針で進むんであれば、今後はちょっとどうしようかなあというところです。


ヒポクラテスの試練(祥伝社文庫)


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読了:動物農場 (Animal Farm), ジョージ・オーウェル [読書日記]

* 動物農場 (Animal Farm), ジョージ・オーウェル, 山形浩生, 早川書房, 9784151200878

オーウェルによる古典である。そう、古典といってよいだろう。1945年の発表である。

古典ゆえ、今の読者としてはざっくりした粗筋は知っているうえで読むわけなのだが、それでもどんどん引き込まれるストーリ構成。粗筋を知らずに読んでも、話の展開から「ははぁ」と分かるに違いない。

書かれた当時、これは現実だったのだ。(いや?今でも現実なのかもしれない。)これは人間たちの所業の愚かさについての寓話である。彼の地に限らず、これは人間の業、いつだってどこだってこういうことになってしまう危険と隣り合わせというわけだ。

「1984年」は人類の将来に振った警鐘だったように思うが、いまの人類に対して過去に学ばなければまた同じことを繰り返すと本書は警告しているのかもしれない。

動物農場〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)


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読了:さよならの儀式, 宮部みゆき [読書日記]

* さよならの儀式, 宮部みゆき, 河出書房, 9784309419190

宮部みゆきのSF短編集。帯紙によると短編集をまとめるのは初らしい。

収録は「母の法律」「戦闘員」「わたしとワタシ」「さよならの儀式」「星に願いを」「聖痕」「海神の裔」「保安官の明日」の7編。短編とはいえ、どれもまあまあボリュームのある作品が収録されている。ページ数もそうだが、宮部みゆきばりの緻密な書き込みがそう感じさせるのかもしれない。
このストーリーテリングに身をゆだねるのが、やっぱりとても幸せな気分。

表題作「さよならの儀式」、最近のニュースで火星探査機がまもなく機能停止になりますメッセージを地球に送ってきた、なんてのを読んだばかりで、読み終わる直前でちょっとうるっと。

個人的には「戦闘員」がイチオシ。SF的な興味としても星新一っぽい面白い題材だし、自分自身がそれなりにトシをとってきているのもあるのか主人公のじいさん(失礼!)の行動や思考のあれやこれやに何だか共感。この作品、なんとなく筆もすごく快調に走っているような気がするのは、そういや宮部みゆきもいい歳だしというのも関係あるのかしらん。


さよならの儀式 (河出文庫 み 33-1)


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読了:こうして誰もいなくなった, 有栖川有栖 [読書日記]

* こうして誰もいなくなった, 有栖川有栖, KADOKAWA, 9784041115213

有栖川の非シリーズもの中短編14作を集めたアンソロジー。

表題作はもちろんクリスティの有名すぎる作品をオマージュ、というより、基本構成はそのままにえ~~~っというひねりを足したという感じか。新本格の有栖川が書けばこうなるよなあ、という予想通りの展開で読んでいて楽しい。いいですね。

それ以外の収録作はジャンルも雰囲気もかなりバラバラ。わざとなんでしょう。
個人的には冒頭の1作が、ちょっとしたお楽しみ作品みたいな感じで好み。
逆にそれ以外は個人的にはまあまあこんなものかという感じ。有栖川は基本的に全部読む方針なので、こういうのも読んでおきましょうかというのが感想です。

こうして誰もいなくなった (角川文庫)


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読了:リアルの私はどこにいる? (Where am I on the Real Side?), 森博嗣 [読書日記]

* リアルの私はどこにいる? (Where am I on the Real Side?), 森博嗣, 講談社, 9784065268063

森博嗣のWWシリーズ第6弾。
だんだんすごい世界になりつつあるこのシリーズ。今回のネタは計算機内に人格を形成したら?というところか。

「棺桶」と俗称される端末を使って、VRの世界でアバターとなってふつうに活動できるのが前提の世界。ある日気づいたら端末に入っていたはずの自分自身がいなくなった!とアバターの人がうったえてくるというのが冒頭のつかみである。

半分ねたばらしになってしまうかもしれないけれど、この時代のチューリングテストってどういう感じなのかなあという興味でいっぱいです。それがある意味で「判別機」なのかもしれないですが。

ラストのあたりは、もう森先生の趣味大爆発という感じですね(笑)。

さてWWシリーズもそろそろ後半戦に突入。この後はどこへ向かうのでしょう?

リアルの私はどこにいる? Where Am I on the Real Side? (講談社タイガ)


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読了:マリアビートル, 伊坂幸太郎 [読書日記]

* マリアビートル, 伊坂幸太郎, KADOKAWA, 9784041009772

2022年にハリウッドで実写映画化された原作小説。伊坂作品は初読。

裏表紙には「娯楽小説の到達点!」などとある。文庫で500ページあまりとそれなりに大部。登場人物はかなり危ない経歴の持ち主ばかり、それぞれの視点に切り替わりながら物語が進行する形式だ。

まあまあ普通にサスペンスものか極道ものの映画になりそうだよねと思いながら読んでいると、胸糞が悪くなるような少年の話が長々と挿入される。(こいつ絶対に最後のほうでひどい目に合う役柄だよな)などと思いながら読み進めると、新幹線車内のあっちこっちでどんどん人が死ぬ。人によっては、大量に出血してるだろう状況で死ぬ。すごい匂うと思うんだけれど、しかし名もない他の乗客たちはだれも異常に感じないらしい(なんじゃそりゃ)。

頭がハテナだらけになりながらも、ようようラストまでたどり着きましたが、うーん。うーーーーん。
個人的には伊坂作品にはもう手を出さない気がしますね。

あとですね、細かいけれど乗り鉄的に、最後の最後で超ひっかかる点。
新幹線の3人掛けのほうの座席は、後ろの席に人が座ってたら脚が邪魔で回転できないんですよね。しかもこんなふうに強引な操作でなんてとてもとても。伊坂氏はグリーン車しかのったことがなくて知らなかったんじゃないのかなあ。
ここ、かなり格好いい見せ場のシーンだったんだろうけど、残念ですね。映画化するんだったら何か設定を変えないとですね(0系ひかり号で1966年を舞台にするとかがオススメ。あ、携帯電話が無いか(笑))。しかし本作は2010年発表だからE2系で確定だし、解釈の変えようがないですね。

マリアビートル (角川文庫)


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読了:密室黄金時代の殺人〜雪の館と六つのトリック〜, 鴨崎暖炉 [読書日記]

* 密室黄金時代の殺人〜雪の館と六つのトリック〜, 鴨崎暖炉, 宝島社, 9784299026460

第20回「このミステリーがすごい」大賞受賞の本格ミステリである。本作がデビュー作とのこと。

ウラ表紙にも書いてあるが、とにかく設定が特徴的。
いわゆる「密室殺人」が起きた場合、どうやって犯行が可能だったのか?を証明、つまり密室の謎を破らないと、被告人は無罪になる、というのが数年前から判例となった日本が舞台である。その結果、密室での殺人が成功失敗はともかくやたらと横行しているのだ。

そして本作の舞台は、今はホテルとして使われている山奥の館。登場する10名あまりの人物。なんだかんだあって館が孤立する。そして第一の事件が、というのが発端。連続する密室殺人、そこへ毎回添えられるトランプのカードが実は・・・というわけである。

・・・いやー、面白かったですね。
新人ということで円熟の筆致とかそういう感じではもちろんないのですが、最後に出てくるトリックも盲点的というか現実的に面白いし、そもそも読者に対するサービス精神が旺盛。途中何度も笑ってしまった。

しいて難点を上げるとすれば、いろいろとミステリ小説、最近のライトなやつからベストセラー作家のものまで広く読みつけていないと、いろいろ仕込まれている面白ネタが楽しめない、というところでしょうか。この辺が逆に選考委員にはウケたのかもしれない。(トリックや謎の解明にはこのへん影響しないので、そういう意味では心配ご無用ですが。)


【2022年・第20回「このミステリーがすごい! 大賞」文庫グランプリ受賞作】密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)


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読了:おいしい旅 初めて編, 近藤史恵/他 [読書日記]

* おいしい旅 初めて編, 近藤史恵、坂木司、篠田真由美、図子慧、永嶋恵美、松尾由美、松村比呂美, KADOKAWA, 9784041125984

旅と美味しいものをテーマにした短編集である。著者がそうそうたるメンバーなのがすごい。

冒頭は坂木司。いろんな色の作品の人だが、食べ物といったら「和菓子のアン」。そっち系かと思って読んでいたら全然違った。でもなんだかこの登場人物、微妙に自分とウマが合う気がしてしまう。しかも伊東線~伊豆急行線は、実は乗ったことないんですよね。

続いて松尾由美。この人は日常の謎だよねー、ああやっぱり!と思って読んでたら、え、そっちか、という意表。さすが名手。個人的に台湾のこれは、いろんな思い出もあって大好きだというのもある。

そして近藤史恵。さあて、今回はどうひねってくるのか。そういうつもりで読んでいたら、違いました。直球勝負で人の心に響く、そんなストーリであります。そしてこの人の十八番、超うまそうなメシの描写は健在。

こんな感じで最後まで全7編。
いやはや楽しい旅でした。

おいしい旅 初めて編 (角川文庫)


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読了:沈黙のパレード, 東野圭吾 [読書日記]

* 沈黙のパレード, 東野圭吾, 文芸春秋, 9784167917456

ガリレオシリーズの長編。昨年文庫化されてたのを見落としていて、このたび慌てて入手したもの。
前回ガリレオものを読んだのが2015年なので、実に7年ぶりである。

7年前の「禁断の魔術」でも感じたのだが、だんだんガリレオ先生が丸くなってきている気がするのは、やはり直木賞作家たるもの作風が変わるのか、はたまた作者も読者も丸くなったからそう感じるのか。なおその辺は、ちゃんと作品中でも突っ込みが入れられていて、読んでいてつい笑ってしまった。

笑ったといえば、比較的冒頭近く(結末近くでもう一度)、とある古典が唐突に引用される。東野なりにオマージュ元として意識して挿入したのでしょう、ミステリとしての体裁が違うけどねと思いながらもつい含み笑い(いやしかし)。

作品テーマは全体的に、宮部みゆきの向こうを張ったような印象。それでいて、東野らしいラスト数十ページでの読者へのサービスも忘れない。
途中のレッドヘリングも含め、「トリック」の骨子は容易に思いつくんですが、最後のひねりは予想外、しかしさもありなんという結末。そう、あれも実はレッドヘリングだったんですね。うーんさすが。

沈黙のパレード (文春文庫 ひ 13-13)


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読了:medium : 霊媒探偵 城塚翡翠, 相沢沙呼 [読書日記]

* medium : 霊媒探偵 城塚翡翠, 相沢沙呼, 講談社, 9784065249710

相沢沙呼のベストセラーミステリ。2019~2020に各種の賞をだいぶ総なめにした作品である。相沢作品は初読。

先日から書店店頭に文庫が平置きになっており、しかし個人的に表紙絵の印象がどうも悪くて手を出さないままだったのだが、あちこちのベストミステリみたいなランキングに頻出しているのをみて、いちおう読んでおこうかなと入手したもの。

読み始めての印象は良くなかったですね。
なんじゃこのぶりぶりした人物造形は?だいたい《霊が視える》とか言って東野の初期ガリレオシリーズかよ?などなど。巻末が近付いてきたらもう先行きが見え見えのストーリー展開。どうしてこれがこんな絶賛を?と思いながら読み進めていたら・・・

え~~。え~~~~~!!!

いや、驚天動地とはこのことですね。しかもそれが次から次へ何発も。ほんとう参りました。
解説がこれまた濃ゆい話の連発で楽しすぎ。

表紙で食わず嫌いせずに読んでよかったと心底思う。

medium 霊媒探偵城塚翡翠 (講談社文庫)


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