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読了:屍人荘の殺人 (Murders at the House of Death), 今村昌弘 [読書日記]

* 屍人荘の殺人 (Murders at the House of Death), 今村昌弘, 東京創元社, 9784488466114

2017年に各種ランキング首位をいくつも飾った新人デビュー作のミステリ小説である。第27回鮎川哲也賞の受賞作。もちろん今村作品は初読である。

2019年の冬シーズンに映画化公開され、秋口から書店平積みが目立っていたのもあって購入。いろいろあって数か月だが積読になっていたのをようやく読了。最近見た映画のポスターなどから、ちょっとしたコミカルなタッチの館ものミステリなのかと思っていたのだが、その先入観はまったく間違っていたといえる。

冒頭提示されるやたらと人数の多い登場人物一覧、同じく部屋数の多い館内見取り図。どうみても往年の新・本格ばりである。帯紙で有栖川や綾辻が絶賛しているのは、このあたりの流れ重視があるのかと誤解しまくる。第1章のほんわかぶりがこれに拍車をかける。インターミッションにいちまつの不安感を感じつつもそのまま読み進めると・・・・驚きの、本当に驚きの展開が待っていた。いや、実際読んでいて、一方的な展開になかなかついていけなかったし、そのあともしばらく、これ自体がなにかのトリック?、とか、叙述系の誤解を読者にさせようとしている?とか、あれこれと翻弄させられたあげく、この状態自体を受け入れたうえで(受け入れにくいけど、目の前に現実(?)として表れているのだからいったん受け入れることにして)そのうえでミステリとして読む、という体験をさせられた、というわけだ。

解説で有栖川も書いているが、怒涛の場面展開が最大のネタということでは決してない。だってページ数で数えてもまだ1/3かそこら。ついつい単に目を剥いてしまうこの事態は、ミステリ自体を成立させている場であるのと同時に、トリックの前提、犯行の必然性、などなどと密接につながっているのである。それが明かされるのは最終章の謎解きの場面。それまでややわざとらしく提示されていたいくつかの伏線というか表現の違和感も、ここできれいに回収される。

いや、なかなかすごい読書体験でした。
これだからミステリ読みはやめられない。

# ところで、いったいこれどうやって映画化(映像化)したのか。たぶん観ませんけどちょっと興味あり。

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)


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読了:本バスめぐりん。, 大崎梢 [読書日記]

* 本バスめぐりん。, 大崎梢, 東京創元社, 9784488487072

公営の移動図書館を舞台にしたコージーミステリである。
大崎ミステリは、これまで書店員が主人公であったり、出版社の営業マンがそうであったりと、本がらみが舞台であることが多い。そこへ来てのこの新シリーズである。楽しみである。

メインキャラクタは、移動図書館担当の若手の司書「ウメちゃん」と、同シニアスタッフで運転手でもある「テルさん」。さすがの大崎の筆で2人ともいい味を出しているのだが、やる気まんまん空回りもある案外有能司書のウメちゃんよりも、前職はSEを何十年もやっていたバリバリの会社人間から転身したテルさんに興味津々。機械相手がメインの技術職という設定なのか、接客(というより一般人との人付き合い?)がいまいちのテルさん。いやーSEの人って仕事の半分は営業だからそんなことないよねーと頭の隅で思いつつも、元SEのシニアな人が全くの別分野で活躍する話という設定自体が珍しい気がする。それでいてテルさん、このお話の最後まで、技術ネタを語るとか昔取った杵柄的な活躍を一切しないのだ。

世の中そんないい人ばかりでもないよとか、そういう突っ込みもあるかもしれない(エンデの本の話は読んでて泣けてきました)。でも、こんなあったかい話も、たまにはみんなで読みたいものですよね。

本バスめぐりん。 (創元推理文庫)


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読了:夜来たる (Nightfall One), アイザック・アシモフ [読書日記]

* 夜来たる (Nightfall One), アイザック・アシモフ, 美濃透, 早川書房, 4150106924

アシモフの古典SF短編集である。
1969年の作品で、ハヤカワが翻訳したのが1986年との奥付。本当に古典である。

アシモフは個人的にどちらかというとミステリが好みで、黒後家蜘蛛のシリーズとか鋼鉄都市(これはSFかも)は全部読んでいるけれども、SFというと有名どころ数点しか読んでいない。そうはいっても短編ベストといわれているものは読んでおかないとなあということで入手。版元品切れゆえ古書である。

表題作は多重恒星系に属する惑星に数千年に一度訪れる「夜」。この現象はいったいその星の住民たちにどれだけ強烈な影響を与えるのか?という話である。これだけ聞いて、「地球の長い午後」みたいな着眼点かなぁと思って読んでいたのだが、それとはまったく方向性が違った。あちらは物理的生物的な影響、いっぽうでこちらは、、、ということなのである。

収録はそのほかに、「緑の斑点」「ホステス」「人間培養中」「C-シュート」の全5点。あえて分類すれば、その分野はいろいろ。ファーストコンタクトものを含め、惑星外生命にからんだ話が多いのは時代のなせる業か。記述のはしばしにはちょっと時代感があったりするものの、扱っているテーマやら謎やらは今でも通じるというのが、さすが読み継がれてきた古典SFということなのでしょう。楽しめました。


夜来たる (ハヤカワ文庫SF)


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