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読了:増加博士の事件簿, 二階堂黎人 [読書日記]

* 増加博士の事件簿, 二階堂黎人, 講談社, 9784065124161

二階堂黎人の短編集である。フェル博士のパロディである増加博士が活躍するという作品。
帯紙には「あまりにもあまりにも不可解なダイイングメッセージ」とか「当代きってのトリックメーカーによる“本格”ショートショート」などという文句が並ぶ。二階堂作品なんてひさしぶりと思って手に取った。

目次をみると10ページほどの小品が多数掲載されている様子。どんなトリックネタなんだろうと思って読み始めたのですが・・・第1話を読みおえた時点で、うーんこれは・・・と。

続く2話目以降も基本的に同様のノリで話が進む。なにかの冗談かといぶかりつつ、最後まで全部読むと一連の謎がどうにかなるといった仕掛けなのかと思ったりして最後まで読み続けたのですが、期待は悪い方向に裏切られました。最後のほうにはちょっとだけ密室その他のトリック話も出てくるものの、驚きは無し。

「あまりにもあまりにも不可解なダイイングメッセージ」ってそういうメタっぽい二重の意味なんですかね。なんで二階堂こんなの書いたんでしょう。

増加博士の事件簿 (講談社文庫)


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読了:青鉛筆の女 (Woman with a Blue Pencil), ゴードン・マカルパイン [読書日記]

* 青鉛筆の女 (Woman with a Blue Pencil), ゴードン・マカルパイン, 古賀弥生, 東京創元社, 9784488256098

帯紙には「三重構造の超絶技巧ミステリ!」などという売り文句が躍る。2015年発表の米国ミステリである。マカルパイン作品は初読。

三重構造というのは、(1)1945年刊行のパルプ・スリラー、(2)編集者(欧米の編集者は原稿に青鉛筆でコメントを書き込むらしい)からの手紙、(3)手書きの原稿の束、のことで、これらが順繰りに読者に提示されていくことを指している。

冒頭、ハンフリーボガード主演「マルタの鷹」が上映されている映画館で物語の幕は上がる(個人的に最近同作を文庫で読んだばかりで、おおぉと思った)。読み進めていくと、これら(1)~(3)の3つはどうやら互いに関連性があるらしいことがわかってくるのだが、なぜそういう自体になっているのかは謎のまま。(1)と(2)が相互に干渉していることはうすうすわかってくる。(3)はなんだかSF仕立てのような気もしてくる。ちょっとご都合主義な展開とか何だかなぁと思いながらも読み進めていくと、ところどころにおやっと思う微妙な記述。前のほうで出てきたアレに関係しているのか?と。謎はしかし綺麗な解決を提示されることなく強引に本編は終了、後日談が語られて全ては終わってしまうのだ。

やや不完全燃焼な気持ちで解説を読み始めて、瞠目。わたし日本人ですが、第二次大戦中に米国の日系人が直面した厳しい状況については殆ど無知で(『バンクーバーの朝日』は映画館で見たけれど)、それゆえ読後感が不完全燃焼だったことが分かるのだ。歴史的事実をいろいろ後付けで(webで)調べていくうちに、著者が仕掛けていた伏線に気付くこと気づくこと。ううーんこれが帯紙の三重構造だったのか、青鉛筆女史の言動もそれを踏まえると意味あいが違ってくるし、表紙もそういう意味・・・色々な意味で無念・・・。初期の西村京太郎ミステリにも通じる何か。
くやしいので再読するか。

青鉛筆の女 (創元推理文庫)


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読了:虚無への供物, 中井英夫 [読書日記]

* 虚無への供物, 中井英夫, 講談社, 9784062739955, 9784062739962

推理小説三大奇書のひとつである長編ミステリである。上下巻それぞれ400ページ超となかなかの大部。
ちなみに三大奇書とは「黒死舘殺人事件」「ドグラ・マグラ」と本書であるとされている。「黒死舘」は読了済みで、本書が2つ目ということになる。

舞台は1954年、戦後の混乱期を脱したかにみえる東京。冒頭から社会を騒がした事件事故に言及があり、現代の読者に対して時代背景(だけでは実はないのだが)が示されるのがちょっと面白い。女探偵役を自ら任ずる奈々村久夫嬢のしゃべりかたが妙で気になるのだが、これは当時の雰囲気なのであろうか。

読み始めてほどなくして事件が起こり、主人公たちは勝手な素人推理合戦を始める。これが話があっちへ飛んだりこっちへ飛んだりして読みづらい(素人なので当たり前なのだろうが)。挙句に他の者が知っている事実などにより、えんえんと語られた推理自体が覆されてしまうこと多々。うーんこのストーリはいったいどこへ向かっているのだ、と思っているうちに第二の事件発生。それを受けてさらに推理合戦を始める面々。歴史的背景やら、過去の因縁、怪しげな見立てが浮かんでは消える。さらにもう一つの密室殺人が勃発して事態は混迷を極め・・・。

いやはや、しかしさすが奇書と呼ばれるだけのことはある。もう面白いとか面白くないとかいうのを超越している気がしましたね。茫然自失とはこのことです。

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)


新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)


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読了:大相撲殺人事件, 小森健太朗 [読書日記]

* 大相撲殺人事件, 小森健太朗, 文藝春秋, 9784167753283

相撲界を舞台にした連作ミステリである。小森作品は、「ローウェル城の密室」に続き2作目の読了。
本書入手の経緯は多分に軟弱なもの。いわゆるネットに流れている話題ネタ、背表紙のあらすじが奇抜すぎる!というのを見て、である。
実際それは奇抜である。抜粋しよう:「・・・しかし彼を待っていたのは角界に吹き荒れる殺戮の嵐だった! 立会いの瞬間、爆死する力士、頭の無い前頭、密室状態の土俵で殺された行司・・・」。

本書は短編6話からなっているが、実質的に続きものである。読み始めてすぐ、ユーモアというかおバカな展開にクスクス。ちょっと先が思いやられるなぁ、と思いつつページを繰っていくと、謎の力士殺しとその鮮やかな解決の提示があって第1話は鮮やかに終了(これは「奇抜な凶器」ネタなのか?)。第2話はどうやら途中でネタ割れした気がするが、そんな凄惨な謎をさらっと解いて終了(元ネタは古典ミステリの某作のオマージュ?)。続いてはこれでもか~という規模の連続殺人事件。さらに、密室殺人もの、アリバイ崩しもの、嵐の館もの、と古典ミステリの王道パターンを下敷きにしたと思われる話が続く。

全編ずっとこれクスクス笑いながらも、時におおっと思えるネタが満載。もっとも、古典や本格ミステリをあるていど読みつけていないと鼻をつままれたような気になるかもしれない。その意味で読者を選ぶかもです。

大相撲殺人事件 (文春文庫)


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読了:ヒポクラテスの誓い, 中山七里 [読書日記]

* ヒポクラテスの誓い, 中山七里, 祥伝社, 9784396342104

法医学をテーマにした連作短編ミステリ。
中山作品は初読。

これまで読んできた法医学ものというと、ドキュメンタリに近いもの(「法医学教室の午後(西丸)」「死体は語る(上野)」など)が浮かぶのだが、本作はフィクション、それもミステリである。主人公が女性医師ということもあって、テレビドラマ仕立ての軽い雰囲気のミステリかなぁ、と思いつつ入手。しかしその予断は良い方向に裏切られた、というのが結論。

短編5作が収録されているが、明らかに続けて読むことを期待している構成で、登場人物もおおむね繋がっている。ものがたりの柱は、とくだん不審な点もなく亡くなった人に実はあれやこれやの事情やら原因やらが~というのを法医学の権威の先生が白日の下に暴き出す、という話。主人公は内科から派遣されてきた若い女性研修医、権威の教授は言動がだいぶエキセントリック、准教授の先生はこれまた変わり者のアメリカから来た女性。話の進み方は確かに少々ドラマ仕立て。いくらなんでも県警の現役刑事がそんな行動はしないよなぁとか、真実を突き止めるためとはいってもみんなちょっと常識外れだよねとか、突っ込みどころはたくさんある。なのだが、その結果として明らかになる予想外の事態。法医学も含めて医学知識にはかなり乏しいのだが、読んでいてええぇ~と思いつつ説明にはなんだか納得してしまう書きっぷり。この辺はもう著者の筆力なのでしょう。さらに各編でちょっとずつ伏線を置いていき、最終輪でばっちり回収するというミステリファン向けの読者サービスも忘れない。楽しめました。


ヒポクラテスの誓い (祥伝社文庫)


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