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読了:インテグラル・ツリー (The Integral Trees), ラリイ・ニーヴン [読書日記]

* インテグラル・ツリー (The Integral Trees), ラリイ・ニーヴン, 小隅黎, 早川書房, 9784150106935

いまや巨匠といって良いだろう、ラリィ・ニーヴンのハードSF。1983年の著作である。

リングワールドに勝るとも劣らない特異な環境に生きる人々の物語である。あちらは人工物、こちらは自然の成立したもの、という相違はあるが、宇宙の果てに生存可能な広大な環境があって、というセッティングそのものは同じ系列だろう。

まず巻頭に図解がある。中性子星を巡るガスの円環体と、その内部構造。あとからわかるが、この図がないとものがたりの最初っから何が何だか理解できないだろう。濃密な呼吸可能な気体に満たされた「スモークリング」。そこに生きる「インテグラルツリー」。さらにその上で生きる人々。ツリーの周りには人類以外の不思議な生き物も存在している。それらの環境はどうやって存続しているのか、人々はどうしてそこに居ついているのか。知識の伝承を担っている者たちの会話の断片と、そして狂言回し的に現れるAI「ケンディ」の独白によって、徐々にそのあたりは明らかになるのでご安心のほど。

いやいやしかしこの話は楽しい。人類の知らない高度な科学技術が出てきたり、異星人の残した超絶環境がでてくるわけでもない。自然の猛威による災厄と、それって「未来少年コナン」ですかと思えるちょっとした舞台転換があったあと、播種SFとしてはおさまるべきところにおさまっていく(このあたりも未来少年コナン風かも)のも後味が良い。続編を期待したいところだが、流石にもう書かれないだろうとも思う。(と思ったら、ずっと前に書かれているじゃないですか! "The Smoke Ring (1987)"。)
ひさしぶりにワクワク楽しませてもらいました。

インテグラル・ツリー (ハヤカワ文庫SF)


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読了:さよなら神様, 麻耶雄嵩 [読書日記]

* さよなら神様, 麻耶雄嵩, 文藝春秋, 9784167908805

麻耶雄嵩の「神様」シリーズ(?)の第2弾である。

例によって連作短編の形をとる。前作「神様ゲーム」を読んだのは3年前、ジュブナイルの形をとったものだが、あの幕引きはかなり衝撃的だった。今回もそういう感じかなぁと読み始めるとちょっと様相が違う。舞台は例によって小学校のとあるクラス、しかし書きっぷりが全然ジュブナイルじゃない。へえ~と思いながら読み進めていくと神様のご神託の通りに突然に事件は終結。そしてまた次の事件が起き・・・という展開。

ジュブナイルじゃない書きっぷりなのが何故なのかは、途中途中にオヤっと思わせる話を挿入しつつ、それは終盤になって明らかにされる、というわけだ。このネタはまあ近年のお約束的なところもあるわけなんですが、そのへんを絡めつつ話はどんどんえげつない状況に陥っていく。

最後のエピローグはともかく、連作の形のエピソードを読み進めるにつれて心が苦しくなってくる。ミステリ小説でこういう感じになるものは珍しいよなあと思いつつ、このあたりが麻耶の真骨頂なのかなと。きっと今後ずっと忘れられない読書体験になったと思う。

さよなら神様 (文春文庫)


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読了:横浜駅SF, 柞刈湯葉 [読書日記]

* 横浜駅SF, 柞刈湯葉, KADOKAWA, 9784040721576

角川のWeb小説コンテスト「カクヨム」から出たというSF小説。
旬のものは早めに読まなくてはとおもいつつ1年前くらいから積読になっていてようやく読了。もちろん柞刈作品は初読。

元ネタは良く知っている。個人的にも1978年くらいから10年ばかりは毎日、その後も数年のブランクを挟みながら横浜駅とはずっと付き合ってきている。東西自由通路が初めてできたときから(そう、昔の横浜駅は西口から東口に抜けるのに入場券が必要だったのだ!)、常にどこかしらの改良工事が続いている横浜駅。ただそれだけのネタをよくここまで広げたなぁというのが、まずもって偽らざる感想。

帯紙のコピーにもあるように、思わず一気読みしてしまうようなジェットコースター的なストーリー展開。端々に出現する突込みネタも楽しいし、それなりにちゃんと考えられている各種設定の裏に思いを巡らせたりするのも面白い。多少ご都合主義的な部分も目に付くものの、文体も比較的読みやすくてサクサクと読み進められる。

もっとも、ここまで広げた大ぶろしきをどう閉じるのかという部分に限って言えば、ああぁ~と思った、というところ。まぁそれですべてメデタシメデタシにはなっていないところは考えていますねといちおう納得した感じではありますが。どうやら続編がでているらしいのですが、それはもういいかなぁ、と。

横浜駅SF (カドカワBOOKS)


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読了:日曜の午後はミステリ作家とお茶を (Shanks on Crime), ロバート・ロプレスティ [読書日記]

* 日曜の午後はミステリ作家とお茶を (Shanks on Crime), ロバート・ロプレスティ, 髙山真由美, 東京創元社, 9784488287047

コージーミステリの雰囲気(必ずしも描かれる事件はコージーでもないが)の連作短編集である。
ロプレスティ作品は初読。というより、解説など読むと本邦初紹介のものらしい。書店で平積みになっているのを見て、へぇ~と思ったのが第一印象。

内容はというと14編の短編(一部ショートショート風のものを含む)を収録。主人公はいまいちブレークしないミステリ作家レオポルド・ロングシャンクス氏。切れ者の奥様であるコーラも、ミステリ分野ではないが同じく作家、という設定である。描かれる事件は、殺人がからむものから、ちょっとした紛失物の謎まで幅広い。いくつかは犯罪すら起きていない(未然に防げた)という話。著者が各編末尾のメモにも書いているが、これら作品は主にアルフレッド・ヒチコック・ミステリマガジンに掲載されたものを集めた形である。

で、これが読んでいてやたらと面白い。古典ミステリにありがちな超絶トリックが駆使されて、とかそういう話ではもちろんないし、シャンクス氏(なぜか苗字を略して皆からシャンクスと呼ばれている)が超人的な洞察力を発揮する、という話でももちろんない。本作の舞台は現代のアメリカで背景理解はまったく問題なし。(おそらく翻訳者の腕もあるのだと思うが)すらすらと読めて、ふむふむと納得して、最後にはウィットに富んだオチでクスッと笑う、そういう読書体験を存分に楽しめた。個人的には、「階段」「タクシー」あたりは、この最後の最後でこうきますかというヒネリで吹き出しそうになってしまった。

短編で気軽に読みはじめられるし、ミステリ小説のお約束的な面倒な話は出てこないし、ましてやきわどい描写など皆無なので、通勤電車の中などでも読みやすい。オススメ。

日曜の午後はミステリ作家とお茶を (創元推理文庫)


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読了:風のベーコンサンド~高原カフェ日誌~, 柴田よしき [読書日記]

* 風のベーコンサンド~高原カフェ日誌~, 柴田よしき, 文藝春秋, 9784167910471

柴田よしきの手による「旨そうなご飯」もの小説である。いわゆるミステリーではない。柴田というとどうしても、猫探偵正太郎シリーズが頭に浮かんでしまうが、このところ鉄道を絡めた成長物語小説とか、いろいろ新境地ものが目立っている感じ。

本編は、とある事情で高原の村にカフェを開いた女性の奮闘記、といったところか。東京から移動してきて店を開き、地元住民との良好な関係を築きつつ、東京に残してきたとある事情のややこしい話が途中でからまり、、、という流れでまずは開店から1年の様子を描き切ったという分量。文庫で300ページ弱、この人の特徴でもある読みやすい文体もあって、さらっと読み切れる。

個人的にポイントは2つ。
(1)美味しそうな料理
読んでいて舌なめずりをしてしまう旨そうな料理の数々が登場する。この主人公が超絶技巧のシェフだから、のような設定ではないのは一つポイント。ローカルの良い素材のおかげ、というのが再三説明される。それに加えて主人公の丁寧な仕事、という形になっている。絵空事っぽく思えないように書き込まれているところはさずが。
(2)高原の村でカフェを営業するという難しさ
超有名観光地ならともかく、バブル期に流行りました~という設定では営業的に苦労するだろうことは想像に難くない。そのあたりも数値は出さないまでも主人公は頭を悩ます。高原ゆえのシーズンオフ問題やら、気候と維持費の問題やら、なかなかちょっとリサーチしました(主人公も、著者も)という雰囲気がでていて好感であります。よくありがちな地元住民との軋轢、のあたりはサラッと流されている感じではありますが、まぁここを掘り下げても仕方ないというところか。丁寧な話作りで読んでいてひっかかることもなくて楽しめた。

実は一か所だけ言葉づかいで引っかかった。
「山スキー」。
少々あいまいなのだが、文脈を読むと普通にリフトに乗ってゲレンデで楽しむスキー、のことを指して主人公&関係者が口にしているように読める。しかしもともとスキーゲレンデを営業していたような地域(スキーと言えば全員がクロスカントリーを思い浮かべるような北欧某国のような地域ではなく)であれば、それは単に「スキー」というと思う。わざわざ山をつけると、バックカントリーとか、自分で担いで山頂へ登るとか、ゲレンデ外を自己責任で楽しむスキーという意味に近くて、子供たちがたくさん滑っているというのは雪国とはいえ微妙だ。(それもあって、この単語が発せられた時、おぉーなんと、冒頭からずっとホンワカ系で来たのに、ここへきて舞台を移してアクロバティックな展開がこの後?柴田よしきスゲー、と期待して読み進めたら違った、ということです。笑)

風のベーコンサンド 高原カフェ日誌 (文春文庫 し 34-19)


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