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読了:シャーロック・ホームズの蒐集, 北原尚彦 [読書日記]

* シャーロック・ホームズの蒐集, 北原尚彦, 東京創元社, 9784488479114

シャーロックホームズもののパスティーシュ作品6編を収めた短編集である。北原氏は有名なホームズマニアとのこと。

本書に収められているパスティーシュは、ドイルが書いたホームズ作品中で名前だけ触れられている「語られざる」事件のものがたりを、ドイル風に作風を工夫しながらミステリに仕立てる、という趣向のもの。あとがきにもあるが、これはなかなか書くのが大変であろう。自分はさしてホームズマニアというわけではないが、ドイル作品はいちおう全作を読んでいるし、各種パロディやパスティーシュも十数冊保有しているというレベルではある。

さて中身であるが、なかなか面白い。うまいことドイル風に味付けされた文章表現やストーリ展開、ドイルばりのホームズ超人描写や、いまではNGの推理の飛躍など、当時の雰囲気をこれでもかというふうに盛り込んでいる様子。


個人的にはもうちょっと口語文(特にワトスンのせりふ)を固めの表現に徹してもらったほうが、さらに雰囲気が出るよなぁとも思ったが、これは自分が新潮文庫の延原訳でホームズものに触れた世代ゆえか。

まあそのような細かいところを気にしたりせず、ストーリ展開とホームズ推理の飛躍を目の当たりにして楽しむ、のがよいような気がしますね。

シャーロック・ホームズの蒐集 (創元推理文庫)


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読了:最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか (Inviting Disaster - Lessons from the Edge of Technology), ジェームズ・R・チャイルズ [読書日記]

* 最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか (Inviting Disaster - Lessons from the Edge of Technology), ジェームズ・R・チャイルズ, 高橋健次, 草思社, 9784794222930

現代において発生した巨大事故例を取り上げて、その発生にいたるまでの要因分析を行おうというドキュメンタリ本。文庫で500ページ超となかなか大部である。かつて柳田邦夫の「マッハの恐怖」シリーズを愛読した者としては、こういう本にはついつい手が伸びる。

本書では、事故と言っても純粋な自然災害は原則として含まれていない。人間が設計、運用している装置なり施設がなんらかのトラブル(それは自然環境が要因の一つとして影響している場合もある)を引き起こし、それをマイナートラブルで食い止めることができずに大事故に至ってしまった、という事例が取り上げられているのだ。

原書がかかれたのは2001年。取り上げられている事例には、有名だが古い時代のもの(例えば、三菱長崎のタービン飛散、米国リバティ号沈没、など)は意図的にか排除されていて、あくまで現代に起きている事故に絞られている。まずは、洋上石油掘削基地の転覆、続いてスリーマイル島事故、チャレンジャー号打ち上げ失敗といったところだ。(2001年著作ゆえ、2011年の日本の原子力発電事故は載っていない。)

いずれの事例紹介でも、学術的な解説というより、臨場感あふれるストーリ描写という感じになっているので、まあ良い意味でも悪い意味でもハラハラドキドキしながら読み進められるようになっているのが特徴。これ知っているよという事例もいくつかあるけれども、これだけの分量を通して読むことで全体感を把握できるともいえるだろう。

ちょっとだけ苦言をあげるならば、本書は最終章が全体のまとめになっているのだが、全体のお話に対してまとめの分量が少な目で、事例の一般化が中途半端に終わってしまっている印象である。ページの割合的に、事故事例のストーリ集みたいになってしまっている感。
また、事故事例の中で類似の例を挙げたいがために、メインのストーリの途中で時々脇道にそれることがあるのだが、これが毎回毎回唐突感があって、一瞬はなしについていけなくなる。翻訳の問題なのかもしれないが、集中をそがれるのでちょっとどうにかならないかと思ったところだ。

最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか (草思社文庫)


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読了:妖女のねむり, 泡坂妻夫 [読書日記]

* 妖女のねむり, 泡坂妻夫, 東京創元社, 9784488402204

泡坂妻夫の長編ミステリである。泡坂は短編ばかり読んできたので、長編は先日読んだ「湖底のまつり」に続いて2作目の読了。
カバー絵、タイトル、それに裏表紙の要約を読む限りでは、なんだか怪しげな幻想小説じゃないかと思えてしまうが、驚くなかれ実は・・・という代物である。

冒頭、ちょっとした偶然により興味深い書き物が見つかるところから物語は始まる。その謎を解くために(というより、掘り出し物で儲けようという思惑で)長野県へと向かう主人公。その列車内で第二の偶然の出会いが演出され、そして物語は輪廻転生にからめたかたちで本格的に転がり出すのである。

主人公たちはすべて即断即決で行動も早い。今でいえばジェットコースター的なミステリの様相。終盤に入ると、幻想小説はそのベールを脱ぎすてる。東京と長野を行ったり来たりしながら、都合数日間の物語は一気に完結してしまうのだ。

いろいろと偶然に依拠して話が進んでいくのが気に入らない向きもいるだろうが、これはあくまでも計画的犯罪小説ではないのでOKではないかと思う。ラストで冒頭のさりげない伏線にもどってくる(しかもその元の描写がまた・・・)ところなど、さすが泡坂という感じ。
当初はどうなることやらと思いながら読み進めたが、結局のところかなり楽しめました。

妖女のねむり (創元推理文庫)


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