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読了:「昔はよかった」と言うけれど : 戦前のマナー・モラルから考える, 大倉幸宏 [読書日記]

* 「昔はよかった」と言うけれど : 戦前のマナー・モラルから考える, 大倉幸宏, 新評論, 9784794809544

とにかく最近の日本人の道徳観の低下がひどい!昔はそんなことはなかったのだが。。。というありがちな論説を歴史をさかのぼって分析するという趣向の教養本である。2013年の著作。

本書では触れていないが、認知科学的に一般論で語れば、これは人類誰もが持っている認知バイアスがその原因ということであろう。自身が体験した過去の記憶は美化され、都合の悪い記憶は意図せずとも忘れてしまう、と。もっとも、そんなロジックを語っても市井の人々の心には響かない。そこでこの著者は、戦前や明治大正の記録(新聞記事であったり各種論評であったり)を引用し、冒頭のような主張はまったく的外れであり、少なくとも「最近の若者は・・・」並みに根拠がない、ということを示そうとしているのだ。

まず第1章は、鉄道施設における人々のとんでもない行動について。
電車のドアが開くや否や、降りようとする者には目もくれずに我先に乗り込もうという者が押し合いへし合い。無駄な労力をかけた挙句に電車は遅延、混雑はさらにひどくなるという結果だ。ちなみにこの現象については寺田寅彦も随筆の中で嘆いていて、当時としてはかなり一般的な状態だったようである。
かくいう自分も、昭和末期ごろの夜行列車(全車寝台ではなく座席車両が多数連結されているタイプ)に両手で数えるよりは多い回数乗車しており、終着駅に近づくにつれて車内で敷物にしていた新聞紙やら捨てられた弁当ガラなどで、車内がゴミ溜めのようになっていくのを目の当たりにした経験があるので、本書で引かれている戦前の状況も理解できる気がする。

個人的にはもうこの章だけで読みごたえとしては十分なのだが、第2章以降、公共の場での不道徳行動、職業人の低モラル、児童虐待、老人虐待、適当すぎる子供のしつけ、などなど、「昔はひどかった」というしかなさそうな事例の列挙にだんだん暗澹たる気分になってくるという調子。そして極めつけはあとがきに引用される「徒然草」第22段の一節がこれ。

  何事も、古き世のみぞ慕はしき。今様は、無下にいやしくこそなりゆくめれ

おそらく日本人、というより人類は、永久にこの概念から逃れられないのでしょう。

「昔はよかった」と言うけれど: 戦前のマナー・モラルから考える


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